41番歌~50番歌

恋すてふ
わが名はまだき
たちにけり

人しれずこそ
思ひそめしか

壬生忠見みぶのただみ

わたしが恋をしているという噂が、もう世間の人たちの間には広まってしまったようだ。人には知られないよう、密かに思いはじめたばかりなのに。

ちぎりきな
かたみにそで
しぼりつつ

すえの松山
波こさじとは

清原元輔きよはらのもとすけ

かたく約束を交わしましたね。互いに涙で濡れた袖をしぼりながら、波があの末の松山を決して越すことがないように、二人の仲も決して変わることはありますまいと。

あひみての
のちの心に
くらぶれば

昔はものを
思はざりけり

権中納言敦忠ごんちゅうなごんあつただ

このようにあなたに逢ってからの今の苦しい恋心にくらべると、会いたいと思っていた昔の恋心の苦しみなどは、何も物思いなどしなかったも同じようなものです。

あふことの
えてしなくは
なかなかに

人をも身をも
うらみざらまし

中納言朝忠ちゅうなごんあさただ

あなたと会うことが一度もなかったのならば、むしろあなたのつれなさも、わたしの身の不幸も、こんなに恨むことはなかったでしょうに。(あなたに会ってしまったばっかりに、この苦しみは深まるばかりです)

あはれとも
いふべき人は
思ほえて

身のいたづらに
なりぬべきかな

謙徳公けんとくこう

(あなたに見捨てられた) わたしを哀れだと同情を向けてくれそうな人も、今はいように思えません。(このままあなたを恋しながら) 自分の身がむなしく消えていく日を、どうすることもできず、ただ待っているわたしなのです。

由良ゆらのとを
わたる舟人ふなびと
かぢを

ゆくへも知らぬ
恋の道かな

曽禰好忠そねのよしただ

由良の海峡を渡る船人が、かいをなくして、行く先も決まらぬままに波間に漂っているように、わたしたちの恋の行方も、どこへ漂っていくのか思い迷っているものだ。

八重やえむぐら
しげれる宿の
さびしきに

人こそ見えね
秋はにけり

恵慶法師えぎょうほうし

このような、幾重にも雑草の生い茂った宿は荒れて寂しく、人は誰も訪ねてはこないが、ここにも秋だけは訪れるようだ。

風をいたみ
岩うつ波の
おのれのみ

くだけてものを
思ふころかな

源重之みなもとのしげゆき

風がとても強いので、岩に打ちつける波が、自分ばかりが砕け散ってしまうように、(あなたがとてもつれないので) わたしの心は (恋に悩み) 砕け散るばかりのこの頃です。

みかきもり
衛士えじのたく火の
夜は燃えて

昼は消えつつ
ものをこそ思へ

大中臣能宣おおなかとみのよしのぶ

禁中の御垣を守る衛士のかがり火は、夜は赤々と燃えているが、昼間は消えるようになって、まるで、(夜は情熱に燃え、昼間は思い悩んでいる) わたしの恋の苦しみのようではないか。

君がため
しからざりし
いのちさへ

長くもがなと
思ひけるかな

藤原義孝ふじわらのよしたか

あなたに会うためなら惜しいとは思わなかった私の命ですが、こうしてあなたと会うことができた今は、いつまでも生きていたいと思っています。